バレンタインSS



バレンタイン、それは異性間でプレゼントなどのやりとりをする日…らしい。
一般的には。本来の意味は全く違うが、日々の慣習としてはそういうことになっている。
まぁ、異性間じゃなくても、お世話になった人とかに贈り物をする日と考えるのがベターだろう。





さて、ここはクルーが各々食事をとる休憩所。
休憩をとるクルー達がちらほらいる中、朝から何かとお菓子やグッズをクルーから渡されパンパンになった袋を隣の椅子に下ろす。
何かをするたびに誰かに呼び止められて休む暇も無いほどだった…
やっとこさデュナメスの整備を見届けて一息つこうと思い、コーヒー片手にゆったりしていた俺に
爆弾は急に投下された。





「あ、ロックオン!」

小気味よい音を立てて開いたドアの向こうから顔を覗かせたアレルヤが、俺を見るなり表情を輝かせ
こちらへと向かってくる。なにやらご機嫌な様子で俺の前へと歩いてきたかと思えば
にっこりと笑い、小さな小包を「はい!」と俺へ差し出す。
あー、そう言えば今日はバレンタインデーだったな…と今朝から渡され続けたチョコレートやらなんやかんや
を思い出し今更ながらに思い出す。最近はトリニティの奴らが好き勝手している御陰で情報収集に追われ
カレンダーを見ることもなかったため気がつかなかったのだ。
俺が何も準備していないとわかれば、アレルヤはがっかりするかもしれない。

「悪いな。忘れてた…」

すっかり忘れていた俺は、アレルヤに渡すべきものを持っていない。というか、全員に対して何もしていなかった。
申し訳ない気持で謝ると、アレルヤは「気にしないで下さい」といつもの優しい声で言ってくれた。
あぁ、まともな会話が出来るマイスターって、下手したらコイツだけなんじゃないだろうか…
いつまでもプレゼントを差し出させたままでは申し訳ないので、俺はコーヒーカップから手を離し
初めてそのプレゼントへと手と、視線を送った。
アレルヤの細長く、けれど女々しくは無い手に握られた手のひらサイズの、箱。

・・・・・箱。



・・・ん?・・・・・・・え、・・・・・箱!?




「ちょ、おま 何でこんなモン…!?」

「あ、喜んでもらえましたか?やっぱりこういうモノはロックオンが持っていた方が良いと思って」

「はぁああ!?」


驚きからじゃなく、何言ってるんだコイツ という声が漏れた。
何が、俺が持っていた方が良い だ!!!
受け取ろうと差し出した手を思わずちょっと退ける。
俺の驚いた様子…というか、狼狽した様子に気付いたアレルヤは形の良い眉を八の字にして
さらにたたみかけるように パッケージに書かれた言葉を読み上げる。
うん、そう、読み上げやがった



高らかと




「え?でもこれちゃんと"まるで生身のような感触!0.02ミリ!!"って。一番生に近いのを選んだのに…」

「おま、声大きい!!」

良く通るアレルヤの声がギャラリーに筒抜け。好奇の目が俺たち二人に向けられる
というか、

「何で俺にコレを渡す…。忙しくて相手もいねぇよ」


大体、んなことするくらいなら今は射的の練習するって。
溜息混じりに呟く、しかし相手は一枚も二枚も上手だった。
・・・・次元が違った。



「え?相手は僕に決まってるじゃないですか」

「はぁあああ!?」


何を今更wと付け足しご機嫌なアレルヤ・ハプティズム君。
悪いけど俺はもう許容量を超えそうな出来事にフリーズするしかない。
相手は僕、相手は僕…ってお前




俺 ら い つ 付 き 合 い ま し た っ け ! ?




お付き合いはまず告白から…そして手を繋いで…、なんて言い始める気はないが
同僚にいきなり「やらないか」宣言をされている今の俺の状況は充分異常だ。
しかも相手は特に気にした様子もなくニコニコと言葉を続けている
ギャラリー、見てないでマジで止めろ。


「今日だってロックオン、いろんな人にプレゼントもらったでしょう?
 しかも最近トリニティ兄弟とか出てきちゃって、益々ライバルが増えるし。」


ごめん、そこもっかい説明して。
何がどうライバルなの、ねぇ


「だから僕決めたんですよ。もう待たないって。大丈夫です、痛くないようにしますから」


痛くないように…って、俺 が 下 か 。
え、ちょっと待って。マジで待って。
何で俺同僚に突っ込まれなきゃならないんだ?しかも弟みたいに可愛がってるヤツに。
あれ?おかしくない???おかしくない???
今日はエイプリルフールじゃないよなぁ?????


いつまでもコンドームを受け取らない俺にしびれをきらしたのか
相変わらず笑みを讃えたままのアレルヤが、がっしりと俺の腕を掴み椅子から立たせる。
半ば引きずられる様にして出口へと連れて行かれる俺は、端から見れば"駄々をこねる子供"状態だ。
両手両足をつっぱってみたところで、ハレルヤのあの筋肉に勝てるはずもない。


「や、ちょっと待てって!!俺に拒否権はないのか!?というか、俺の意志は!?」


ギャラリーが多くいるにも関わらず、恥を捨てて叫べば、ピタリと止まるアレルヤ。
そしてやっぱり笑顔で振り向くと、俺の上着のポケットにコンドームの箱を差し入れ


「だから言ったでしょう?ロックオンが持っていた方が良いって。
 生かゴムかくらい、僕だって選ばせてあげますよ」




激 し く 違 う ! ! ! 




「部屋は僕の部屋にしましょうね〜」


鼻歌でも歌い始めるんじゃないかと思うほど上機嫌なアレルヤに引きずられながら
俺はうっすらと目尻に涙を浮かべ、今日という日とアレルヤを呪った。