あいつ、ちゃんと逃げられただろうな・・・?



痛む脇腹を抱えながら右手に持った銃を握り直す。
グリップがどうも滑ると思ったら、肩を打たれ流れていた己の血だった。
道理で肩が熱いと思った。







優しさとエゴ













以前武力介入中に刹那がコックピットをあけ姿を現したことがあった。
その後も何度もあのパイロットと戦闘を繰り返し、(どうやらあのパイロットは刹那の知り合いだったらしい)
何故か俺たちの潜伏場所が割れた。最近の画像解析や情報収集力はまったく凄いもんだ。
まぁ、俺たち と言っても、俺と刹那が潜伏している処だったんだけど。
妙に近辺が静かだと思ったら、案の定と言う感じで一気に攻めてきやがった。
俺も刹那も戦闘を経験したことがないわけじゃない、戦えと言われなくても
己が身を守るためには牙をむく。

でもまぁ、運が悪かったのは…量で押されたこと か?


撃っても撃ってもわんさか出てきやがって。
警戒はしていたものの、そこまで備えが無かった俺たちにとっては消耗戦では勝てる見込みがない。
ガンダムへ逃げたくても、俺の機体は近くにはない。
それでも、運が良いことに刹那の機体は走ってそう遠くない海の底。
このまま消耗戦をして二人とも死ぬよりは、一人が援護してもう一人が生き残る方が賢い選択だ。
それに、エクシアで俺のデュナメスを回収できるから一石二鳥だし。
耳元で壁越しに手榴弾の爆発する音を聞きながら、刹那には悪いが
まだ幼いその横顔が殺伐とした兵士のそれに見みえる姿を見ながら思ったんだ。
恋の「こ」の字も知らないような、平穏な生活を忘れてしまったこの少年は
絶対にそれを知らなければならない筈だ。
今みたいに心を閉ざして、背伸びをしたような状態で死んで良いはずがない。
俺はもう女の躰も知ってるし、恋愛でも勝ち取ったり破れたり、それなりに平穏な日々ってのも
経験したからもういい。それに俺はガンダムマイスターの中でも一番の年増だしな。
もしここで、刹那を逃がさなかったら 俺の俺たる所以がない。


「刹那」

あぁ、銃のたてる音が耳障りだ。

「おい刹那良く聞け」


応戦していた刹那の肩を掴み無理矢理俺が隠れているバリケードまで連れ込む。
片手で簡単に引き込めるほど、コイツの躰は まだひょろっこい。
もっと食って縦にも横にもでかくなんないとなー。
ほっといたらずっとジャンクフードばっか食ってるし。
もう少し5年後10年後の自分のことを考えて欲しいもんだ。


「エクシアまでの道のり、わかるな?」


銃声が鳴り響く中、刹那が俺の問いに対してしっかりと縦に首を振る。


「なら、俺の言いたいことも分かるな。援護してやるから、出口まで突っ走れ」


バリケード越しに見える出口は夜の闇の中で、黒い口を広げてぼんやりと浮かび上がっている
あそこまでの距離なら、こいつを無傷で運んでやれる。
出口から再び刹那へ視線を戻すと、刹那は何とも言えない目で俺を見ていた。
一言で言うと、複雑そう?
刹那はあんまり話してくれないから、刹那がいつもどういう事を思っている とかそう言うのは全然つかめていない。
でも、あーこの雰囲気は怒ってるなー とか。あ、今ムっとしたな、これはNGワードか とか。
微妙に変化する表情で今までそれなりにコミュニケーションがとれていた…ように思う。
今の表情は…そうだな。
言われなくても自分が走れば速いってわかってるけど、俺にそれを言われたのが微妙ってところか?
それとも、俺の援護が気に入らないってか??
どちらにしろ、それを聞くには少々時間が足りなさすぎる。



ごめんな。コレは俺のエゴだ。
年上だからとか、俺がちゃんと見てやらなくちゃとか。
刹那だってきっと一人で何とか出来るんだろうって知ってるけど






もう少しちゃんと話しとけば良かったって 今更ながらに思うよ。





「刹那っ!!」




名前を鋭く呼べば、刹那はバリケードの中から駆け出し床を蹴る
俺はとにかく刹那が安全に出口まで迎えるように、バリケードから身を乗り出してひたすら弾を撃ち出した。
出口を過ぎれば、敵さんはそんなにいないはずだ。
大丈夫、何も問題ない。俺がちゃんと、守ってやるんだから。

断続的に響く破裂音と耳を塞ぎたくなるほどの爆音が満ちたこの空間で
低姿勢で一気に走り抜ける刹那へ向かって銃を構えた野郎を片っ端から撃ち殺していく。
潜伏先から連れ出してきたハロが「ロックオン セツナ ニガス!」と応援してくれている。
見えないけれど、きっと砂埃の製で悲惨な姿だろう。
後で拭いてやらないと、細部にまで入り込んでメンテナンスが必要になるかもしれない。
弾が切れ素早く装填をした瞬間、急に左腹が熱くなった。
その他にも頬であったり腕であったり、火薬の香りと共に肌を掠っていく熱さ。
何度も経験しているからわかる、でも今はそれに構っている暇はない。
数だけは多い敵を駆逐しながら刹那が出口を走り抜けていったのを確認する。
それでもまだ撃つ手は止めない。少しでも安全にエクシアまで辿り着いてもらわないと
俺が頑張った意味、なくなるしな。




腹に手を当てると思った以上に滑った感触がした。
その感触に何となく 刹那の安全は確保したし、もういいかな? と思い
バリケード代わりのコンクリの壁へと身を隠す。グリップを握り直すと肩から流れた血で滑った。
足下に転がっていたハロが心配そうに隣へ移動して「ロックオン ケガ ケガ!」と声を上げる。
夜目で見ても汚れているように見える。ハロ・・・メンテナンス嫌いなんだよな・・・。
ハロとも長い付き合いだ。こんな処まで連れてきてしまって、申し訳ないような気もする。
俺の相棒として実に良く働いてくれたし、助けられた事なんて一度や二度じゃない。
銃を持ったまま両手で目をチカチカさせているハロを掴んで腹の上へのせる。
手をのせるとやっぱり砂でざらざらしていた。軽く手で払ってやると嬉しそうに丸い躰を前後させる。
背を預けたコンクリートに銃弾が撃ち込まれている衝撃が小刻みに伝わり、撃たれた腹と肩が痛んだ。


「ハロ」

「ロックオン ロックオン シッカリシロ シッカリシロ!」

「大丈夫だよ、問題ない。でも頼みがある」


ハロは言って見ろ!とばかりに腹の上で小さく跳ねた。
実はそれが結構痛かったりするんだけど、いつもの調子のハロにこんな状況だけど笑いが零れた。
やっぱお前が相棒で良かった。ほんと頼りになる。
だから頼みを聞いて欲しい



「データ 全削除だ。」



AIでいうところの、自爆になるんだろうか。
学んだ知識全てをサルベージも叶わないほど、完全に削除。
ハロは俺のガンダムに一緒に搭乗していたから デュナメスのデータが残っている。
ハロを持って行かれただけでガンダムの秘密のほとんどは知られてしまうくらいだ。


「悪いな」

「ハロ キニシナイ!ハロ キニシナイ!」


もう一度汚れを拭ってやると、ハロはまた目を点滅させた。
後ろで撃たれた兵士達の呻く声が聞こえる
うるさい、少し黙っててくれ。



「ロックオン ゲンキデナ! ゲンキデナ!」

「…あぁ、ハロも元気でな」



ハロを渡されてからずっと聞いてきた、愛着のある電子音が別れを告げる。
俺は最上級の感謝の気持ちを込めて返事を返した。
やがてプツっと何かが爆ぜる音が聞こえ、部品の隙間から黒い煙が上がる。
俺の座り込んだ丁度左上に付けられた緑の非常灯が 立ち上る煙をぼんやりと照らし
ハロの目に灯されていた光は、ゆっくりとその明度を失って 闇に紛れた。
何も言わなくなっても、やっぱりハロはハロだ。そこら辺に捨て置くことなど出来ない。
手を離せば力無く転がっていくであろうハロを腹に抱えると、腹に溢れた血液を吸い込んだ衣服が濡れた音を立てた。
先程まで五月蠅いほど響いていた銃声が音を潜め、うってかわって静かになったこの空間に響く押し殺した足音。
別働隊だかなんだか知らないけど、弾の残りだって少ないんだから、面倒させないで欲しい。
ちょっと今、振り向く元気もないんだよね 俺。






でもだからって

前から来なくても良いと思うぜ 俺は。



向かい合った壁が容赦なく爆破され、大分距離はあるとはいえコンクリートの残骸が飛び散り
ぱらぱらと音をたてて落ちていく。さすがにこれには耳も限界だったようで、許容量を超え
キーーンとまるで金属音のような音を響かせる。
ぽっかりと空いた穴へ向けて銃を構える。滑らないように力を入れたら、持ち上げるだけでも痛んだ肩が更に痛んだ。












飛び込んできた敵さん3人に銃を構えると問答無用でトリガーを引いた。
手に持った銃の重みが弾がほんの僅かしかないことを知らせてくる。
構えた腕jの肘からぽたりと血がしたたり落ち、どす黒く湿った腹に吸い込まれていく。
奥の方から微かに 生け捕りにしろ という指示が漏れ聞こえる
なんだ、撃ってこないと思ったら やっぱそうかよ。

急所を撃たれ床に伏したそれを乗り越えて、さらに数人が銃を構えて入ってくる


あーやだやだ、さっさと終わらせて俺は帰りたいんだけど?
何かちょっと、眠たくなってきたし。
それに





「…お前らに情報はやらねぇよ」











米神に当てた硬質な感触は 酷く冷たくて眠気を覚ますには丁度良く、心地が良かった






























































「・・・ぶかな・・?・・・あ、もういけ     か。


あー、あー。 よし。


えっと・・・、コレはハロがデータ全削除をした場合に転送される確認的なものなんで
 
これが転送されている場合は ハロの情報は漏れていない     て欲しい。

C.B開発のデータ送信だ   ら、他の勢力に傍受される心配もない    って最初に説明受けたんだけど

本当に     なのか?・・・まあいいか。


んー・・・、スメラギさんはあんま酒を飲ま  いように。


あ     ダムマイスタ ーに…


お前ら協調性なさすぎ!もうちっと俺の言う     けよな!

ティエリアは必要ないってよく言うが、もっと       ケーション能力を養った方がいいと思      ぞ

アレルヤは…、もうちょっと我を出し     良いかな。二人をちゃんとフォローして    て欲しい。

俺が一人でやるの結構限界。傍観してないで助けてくれよ…

刹那は・・・、お前ちゃんと飯食え!野菜とか!ジャン     ドばっか食って    ら大きくなら   んだ。

あとティ    アと一緒でコミュニケー   ン能力をつけ     !



・・・ってまぁ、俺がここまで言わなくても良い        ど

あーくそ、これハロが壊れた    で誤転送されたらマジ恥    かしいな。

最後に、ハ  の  データ全削除(クリア)し      だ本体使えるかな?

愛着があるから今のこ       まで使いたい    けど・・・・


げ、時間もうなさ・      だ   



以上、最年長マ     ス ターの希望!!」