9話を受けての妄想。 熊さんの攻撃を凌いで…の後と思って下さい。 約一名の思惑と、被害者 「いっしょにお風呂に入りましょう」 いつもと同じく笑顔をたたえたアレルヤが、部屋に来るなりいきなりそうのたまった。確かにそろそろ風呂に入ろうとは思っていた。が、しかしそれは一人での話であって。まず人の部屋にはいってきたならば「夜にすみません」とか「少し話したいことがあって」とか、何かワンクッション入れるべきだろう!? 「…いきなりなんだよ」 お気に入りのライフルを解体整備し終えてベットにごろりと横になっていた俺は、いきなりのアレルヤの言葉に気が笑いしながら躰を起こす。勢いよく躰を起こせば、反動で髪が揺れた。 「だから、僕と一緒にお風呂に入りましょう。ロックオン」 「"だから"の意味がわからねぇよ」 にこにこと笑みを浮かべたまま部屋に入ってくるアレルヤの脇には、着替えとおぼしき衣服とシャンプーなどのお泊まりセット(?)の様なものが抱えられている。……こいつ、マジで人のところで風呂に入る気だ。 「風呂でも壊れたのか?貸してやるから先に入れよ」 あくびを一つしながら、頭を掻く。すると天使の笑みを浮かべたアレルヤが。もっかい言うぞ、あのアレルヤが。 笑顔のまま室内のドアロックを、壊れるんじゃないかという勢いで殴って扉を閉めたのだ。 ガツッ という派手な音とその腕の速さを見てしまった俺は、思わず頭を掻いた状態で固まる。 笑顔を浮かべているのに、よくよく見れば目が笑っていない。 え、俺、なんかした? 別に…飯食った時は普通だったのに……?? 俺とアレルヤは……俗に言う、こ。恋人だったりする。正直自分が男とどーこーなるとは思ってなかったんだけど、この年下のマイスターにまるで犬のように慕われ長年アタックされ…。気が付いたら付き合っていた。 24歳にしてなんたる不覚…。控えめなアレルヤにしてみれば、随分大胆な願い事だと思うのだが(やってる時はすげー大胆だけどな…、顔に似合わずデカイし…) 「ロックオン、僕の言ったこと聞こえてました?」 「へ?…あ、あぁ聞こえてたぜ?」 「なら、一緒に入りましょう?」 ………まただ。こいつ俺の話も聞いてねぇよ。 今日だって(というか朝方まで)放してくれず、かなりガタガタだというのに、一緒に風呂なんて入ったら…。 こいつが何もなく出してくれるはずがねぇ!!なんとか上手いこといって追い返すか、一人で風呂に入らせるしか… 「悪い。俺さっき入ったんだ」 ごめんなー?と付け足して嘘をつく。しかしアレルヤはそんな俺の言葉なんて予想していたとばかりにこちらへ寄ってくると、あろう事かそのまま俺を抱き込んだ。 「えぇ、ちょ、何??」 髪の中に手を差し込まれ、首筋に顔を埋められる。うぅ…首は弱いから止めて欲しいんだけどな。毎回毎回、それこそ初めての時だってなし崩しに流されての行為だった。……この年下に、俺は弱いのかも知れない。 引き寄せたまま一向に動かないアレルヤに、もしやこのまま食う気かと焦った俺は先程とっさにアレルヤと自分の間に割り込ませておいた腕を突っ張りアレルヤと距離をとる。意外にもあっさり離れてくれたアレルヤは… すばらしく、目が笑っていなかった。 「嘘つき。だってロックオンの匂いの方が強いもの」 お 前 は 犬 か ! お風呂入った後は、シャンプーの匂いが勝ってるんだけどね?それもそそるから好きだけど。などと続けるアレルヤ。自分がアレルヤについた嘘がばれたとかそう言う気まずさじゃなくて、視線が痛すぎて思わす目をそらした。……責めるような視線がマジで痛い。こうなったら、真っ向勝負しかない。 「嫌だ。俺はお前と一緒に風呂は入らない」 「へぇ…?」 きっぱりと言い切り、アレルヤの目を見詰める。俺は本気だ!という気持を込めるために、ちょっと目に力を入れてみた。俺が嫌がってるんだから、そんな無理に入ろうとか言わないよな?一応、これでもアレルヤの”好きな人”なわけだし…、嫌われたくなかったら我慢する…よな? しかしそんな希望は、続いたアレルヤの言葉に脆くも崩れ去るのだった。 「今日、フェルトと楽しそうに話してたね。ロックオン」 「ん、あぁ。それがどうかしたのか」 確かに自分は今日フェルトと話をしていた。ハロの整備の事とか、「ハロ、元気?」と聞かれたら応えないわけにもいかないだろう。何もやましいことは何一つ無い。アレルヤにしてもかわいい妹分ではないのだろうか。 「別に?でもこないだも個室で、二人っきりで、肩まで抱いて仲良く話してたみたいだから?」 「ア…アレルヤ」 わざわざ区切って強調された言葉が痛い。つか、えええぇ…それ何週間前の話だよ…。もしかしてこいつ、ずっと根に持って…?でも別に、あの時だってやましい気持があってそう言うことをしたんじゃない。自分と境遇が似ていたから…支えてやりたいと思っただけで…。 「お前が心配するようなことは何もないぞ!俺は兄貴分としてだな…」 「うん。じゃあ、兄貴分として可愛い弟の願いくらい聞いてくれても良いよね?」 どの口が可愛い弟とか抜かす!?思わず抗議しようと口を開くも、目の前には満面の笑みのアレルヤ。 しかも俺の手を掴むや否や、凄い力でベットサイドから立ち上がらされ、そのまま風呂の方向へと引きずられる。どんな力してんだこの馬鹿!!お前、俺の前と他の人の前と態度変えすぎだろ!! 「ちょ、待てって!俺は…い、嫌だって、いってんだろーが!」 「あはは。女の子には優しくして、男の子にはそうしないなんて、差別はダメだよロックオン」 誰がそんな話ししたーーーーーーーーーー!? 全力で抵抗するもずるずると引きずられ、無情にも開いた脱衣スペースの扉へ吸い込まれながら、ロックオンは今夜も眠れないことにうっすらと涙を浮かべたのだった。 |
......その後
「・・・・なんで、この体勢なわけ」 俺は今、ものすごく憤りを感じている。そりゃあもう、呆れを通り越して、頭に来るくらい。 今の体勢、それは…一人ならばのびのび足を伸ばせるバスタブに、何故か二人で入っている状況。しかも、俺が座っているその後ろにアレルヤがいて、抱き込まれている。 一緒に風呂に入ろうと言われ、もう仕方がないと腹を括って服を脱ぎ捨て浴室に入った処までは良い。可愛い弟分の我が儘に付き合っただけだと、自分に思いこませた。 先にバスタブに入って良いですよ、と言われたので軽く躰をシャワーで流してから、ぬくぬくと湯が張られた浴槽に入って手足を伸ばした。あぁ、そこまでは何も問題ない。問題なかった。 が、「よっこいしょ」とかぬかしてアレルヤが、事もあろうか俺の後ろに躰を滑り込ませてきたのだ。狭いとか、驚くとかもうそんなじゃない、ぎょっとした。 当たり前の事ながら、「入ってくるな」「狭い」といったものの、笑顔で「可愛い弟分、だよね?」と切り替えされ、それとこれとは話が別だと(一緒に湯船にはいるとは思ってもなかったんだから)言うと、末恐ろしい笑顔で 「あぁ…じゃあ、恋人同士なんだから、当たり前だよね」 と。 そして今に至る。俺は後ろにアレルヤが控えた状態で、背を少し丸めて出来る限り躰を縮める。アレルヤは「もたれていいよ」なんて言ってきたが、とてももたれられるはずもなく…。 俺を抱えるようにバスタブの縁に手をのせるアレルヤは、どうやら俺の姿を後ろから見詰めて楽しんでいるようで。必然的に開かれたアレルヤの両足の間に座り込んだ俺は、大きく足を広げることも出来ずにほぼ三角座り状態だ。湯船の温度は丁度良く、手足がじんわりと温まってくる。室内にいながらも、躰が意外と冷えていたようだ。 「で、何でこの体勢なんだよ」 「え?だって、ロックオンとくっついていたかったんだもの」 後ろを振り向くことなく問うと、何言ってるの、とばかりに返される。いや、ホントお前の思考の方が何言ってるのだからな!?もしこの状況で戦闘配備なんかになって、誰かが呼びに来たとしたら…そしてこの体勢を見たとしたら… 「間違いなく自害するな…」 あぁ、死んでも死にきれないかも知れない。だったらデュナメスで傷心旅行にでも出かけようか。誰も見付けられないような処に逃げて、少しの間何も考えずに過ごしたい。 ぼそりと呟いた言葉はどうやらアレルヤには聞こえなかったらしい。 「ロックオンの背中って…綺麗だよね」 「はぁ?」 溜息混じりに言われる。言葉にこそ驚きの声を上げて振り返ったものの、アレルヤその吐息はまるで賞賛の言葉が見つからないと言わんばかりで、背中を見られている、という事を意識した瞬間から、気になり始める。 見詰められている、アレルヤの、瞳に。 急に頭に血が上った。とにかくそれがばれないうちに、と前を向く。二の腕辺りまである湯が動きで音を立て、浴室に音が響く。ゆったりと上がる湯気は頬の赤みを消してくれるはずもなく、なんとか気を落ち着かせようと俯いた。 「ここのラインが…」 「……ふっ…ちょ、お前っ」 指し示すように触れられて、思わず声が漏れる。今の感じからして、指でなぞられたに違いない。完全にセクシャルな意味合いが含まれたその行動に、指に、これまでさんざんアレルヤに教え込まれた躰が反応する。今のこの状況でも充分恥ずかしいというのに、漏れ出た声が風呂場に響くという事態に絶えられず、俺はバスタブに手を突いて振り返り、悪さをした腕を掴む。同時に、視界に入ってくるアレルヤの鍛えられた胸筋や腹筋、余裕の顔。湯気からついた水滴とかで、まるで行為の時みたいなアレルヤに……不覚にもときめいたりなんてしていない。うん、まったくしていない。 「何?」 ・・・・ こ の 野 郎 。 にこにこと笑いながら掴まれた腕とは別の腕で俺の手を外すと、その手に指を絡めだす。 最初から風呂場は声が響くとか、そう言うのを目的に俺を連れ込みやがったな!? 指の間の股の部分をくすぐるように撫でられ、漏れそうになる声を噛みしめる。振り返った先の、さも嬉しそうな顔が、果てしなく ムカツク。付き合ってられるか。 アレルヤの手を投げ捨て、湯船から上がろうとバスタブに手を突く。と、突然伸びてきた腕に腰を引き寄せられ、体重を支えていた腕と足が滑り湯船に逆戻り…。 派手な水しぶきがあがり、その余波が肩に、髪に、顔にかかる。目に入る湯に思わず目を閉じた。 「……すみません、怒らせる気は…」 後ろから腰と肩に手を回され、きつく抱きしめられながらその声を聞く。髪の先からぽたぽたと水滴が落ち、湯船から上がる湯気が喉を撫でる。ぴったりと隙間無く合わせられたアレルヤの胸板と俺の背中。湯とは違った少し冷たい温かさがじんわりと伝わり、逃がすまいと閉じられた足の間に納められ身動きもとれない。 しかし、やろうと思えばこの拘束を無理矢理にでも解いて出て行ける。若しくは、拘束を解くように冷たい言葉をかけることだってできる。それでもそれを出来ないのは、真摯に謝る言葉に嘘がないと思っているからか。この年下の男に、ただ単に自分が弱いだけなのか。 「ただフェルトと仲良くしている貴方に、嫉妬してただけで」 困らせて、僕を見て欲しかったんです。 ほら、こんな事言われたら、もう何も言えない。 まったく、しょーがねぇなぁ。 俺は何も言わない変わりに、抱きしめてくるアレルヤの肩へ頭を預けて天井を見上げる。湯気のせいでいくつもついた水滴が、いまかいまかと落ちる瞬間を待ちわびている様子が見えた。 結局、気持とかそういうのは、いつでも溢れそうで、臨界点突破で漏れ出すのを待っているんだ。それが早いか遅いかは、個人差があるけれど。感情そのものは、いつでも思い出せば鮮やかで。隠していた嫉妬心だって、何かに触れた瞬間、その振動だけで、あふれかえってしまうのだ。 何も言わないけれど、躰を預けた俺の行動で意を解したのか、アレルヤがさらにきつく、ぎゅっと抱きついてくる。ちょっといたいくらいのそれに、独占欲丸出しなアレルヤの気持を知って、思わず吹き出した。しかたないから、腕を伸ばしてその頭を撫でてやる。 ぼそりと聞こえたアレルヤの言葉に、俺は、今度は盛大に笑った。 「…子供扱いしないで下さい」「でも、ありがとう」 どうしたって、俺は甘い。でもいい。少しくらい、許してやろうかなって、思わせる何かがある。俺に、そう思わせる程、アレルヤが俺を思ってくれている、それだけで十分だ。ずっと俺の後を着いて、好きだ好きだと言われ続けていたあの頃から、きっと俺はもうアレルヤに絡め取られていたに違いない。子供の、子供だけに許される独占欲ってやつで。これで結構、可愛いヤツだと 思うんだ。 ・・・・・・・あ、前言撤回。 「……アレルヤ、なんか、あたってんだけど」 「えへへ」 何が えへへ かと。 腰に直に当たる硬いモノに、俺は今度こそ風呂から上がろうとバスタブに手を突いたのだった。 |