23話そのちょっと後。 ハロが、聞き慣れた声で相棒の名を絶え間なく呼ぶ声が響いている。 彼の集積回路は、ロックオンの言葉がその行動と矛盾していることを、彼が帰ってこられる可能性を計算してしまったのだろうか。止めようにも、止めろと言えないクルー達が憤りと、怒りと、悲しみの涙を、彼が遺していった温かさや愛情、その存在の不在を隠す様に、プトレマイオスで流されていた。 はからずして、同時刻。同じように涙を流す人物がいた。 軋む身体の痛みに意識が覚醒し、うっすらと目を開く。 最初に映ったのは塵、そして闇。覚醒したと同時に肺が空気を欲するのか、勢いよく息を吸い込むと思いっきり咽せた。そしてソレがまた、痛んだ内臓を刺激してうっすらと涙が浮かぶ。 ゆっくりと周りを見回してみるが、自分の見覚えのある場所ではない。(宇宙なんて、どこも同じように見えるけど) ……どうやら自分は、あの爆風で思ったより遠くへ飛ばされていたらしい。 MSの残骸すら見えないこの場所は、一体宇宙の何処に位置しているのか…。 「て…、刹那は俺を見付けてはくれなかったのかよ…」 死ぬ気で外に出たから、本当は此で良かったんじゃないかとも思っていたりするが… や、でも、あの至近距離だったら俺の姿が見えてただろうし… ん?もしかして、マジで俺が爆風にすっ飛ばされたの知らないのか? …ってことは…あれ?俺、今プトレマイオスで殉職者扱い?? 殉職者扱い=探しに来ない ってこと、だよな…? あ、あっれー……… 死ぬつもりだったとはいえ、生きていたら生きていたで面倒なものだ。 やっとこさ自分を縛っていた復讐という戒めを破り、これからは自らの意志で世界を変えていこうと思っていたところであるというのに。このまま宇宙をさまよっていては、この怪我の事も有り長くはないかもしれない。 おいてきた相棒の事も気になるし、マイスターの安否も気がかりだ。とにかく連絡を取ることが第一だと思い、プトレマイオスへの回線を繋いでみるが、どうも聞こえるのは砂嵐ばかり。 えー、嘘だろ。 爆風でどっか壊れたのか?そ、それともプトレマイオスが通信圏内にいないとか…? な、いくらなんでもそんな遠くまで行けるはずないだろこの短時間に。 ………短時間??? あれ、俺どのくらい意識ふっとばしてたんだろ…。 「も、もしもし、もしもーーし!」 一抹の不安に、背に冷や汗が伝う。もしかしたらこっちの受信がうまくいってないだけで、あちらには声が届いているかも知れないと思って声をあげてみるが、もちろん帰ってくるのは砂嵐の音。 経験上もう繋がらないとわかっていても、ほんの僅かな希望に縋って同じ行為を繰り返す。 話しかけては、やめ、声を上げては、やめ…数回それを繰り返した後、これ以上大声を出しても身体に響くだけだと諦め、また時間をあけて連絡することにする。 ふわふわと流されていくこの状況がだんだん心細く、だんだん耐え難い物になっていくのを感じていた。 人はこうも、生にしがみつく生き物なのか。苦笑さえ漏れてしまう自分の今の姿。 あの時本当に、死んでもいいと思っていたのに。 「……あいつら無事かな…」 自分が捨てようとした全ての人々の重みが今になってのしかかってきて、サーシェスを討ったことに後悔はないというのに、何故か涙が出た。 帰ったら帰ったで、きっとあいつら五月蠅いんだろうけど…。 「あー、帰りてぇなぁ…」 自分が鼻を啜る音が、妙に大きく聞こえた。 この後兄貴は貿易船かなんかに保護されるといいよ。 当分療養で連絡も一切とれないといいよ。(オイ んで、ライルあたりに居場所を見付けられて、こっぴどく叱られたあげく さらにマイスターにフルボッコされるといい(笑) 染山はここに宣言。 兄貴はきっと生きてるよ!。・゚・(ノ◇`)・゚・。 |