年に一度しかない日。それでも、この自分の人生の中では、一体何回迎えられるだろう?
もし80回なら、俺の残りは、あと55回?
その日を迎える毎にカウントダウンの針は一目盛り進み、ロマネコンティみたいに一つ一つの希少価値が上がっていく。
後何回、後どのくらい、俺は、この先誰とこの日を過ごすのだろう…?





貴方の傍にいたいです.
















プトレマイオスの一室、丁度宇宙の景色が見えるように加工された窓の傍。
つい最近20になって酒が飲めるようになったアレルヤと二人で、スメラギさんから一足早く祝いとしてもらった酒をちびちび飲む。まさか、アレルヤとこうして杯を交わす日がこようとは。
向かいで慣れない酒をストローからゆっくりと吸い込むアレルヤを盗み見る。初めてあった時は、手が付けられないほどの人見知りと人間不信だったのに。昔は、早く大きくなれ大きくなれと思っていたのに、気がつけば自分の背丈をも超える程に成長して…。ま、まぁ、色々と口にしがたい経験までさせてくれた弟分兼恋人だ。しかもアレルヤだけならまだしも、ハレルヤというもう一人の人格とも最近は親しくしているためアレルヤの嫉妬をかって大変だったりする。






暗く、何処までも広がる塵と闇を特殊ガラス越しに眺めるアレルヤがふっとこちらを見る。
弟分はいつのまにか大人になって、昔の面影はあれど青年らしい精悍な顔をしている。たまにそのギャップに胸を時めかせているなどと言うことは、拷問されても絶対に言えない秘密だ。

「もうすぐで誕生日…ですね」
「誕生日が嬉しいって年でもなくなってきたよ」

昔は、誕生日が来るたびに祝ってくれる家族がいないことを思い出して辛かった。けれども今は仲間にこうして祝ってもらえるからこそ、こんな冗談のような言葉が出てくるのだ。傷は癒えない、それでも、寂しさは薄れていく。
あと数分で3月3日、つまり、俺の誕生日が来る。でもこれは、あくまでグリニッジ標準時でのことであって、眼下に広がる地球では時差で何通りもの3月3日が訪れる。自分の誕生日が時差で何度も訪れるというのは、少し妙な気分だ。酒を一口煽りながら、今の自分の年に一つ足した数字を思い浮かべ苦笑い。
先程アレルヤが見ていたように窓の外へ視線を向ける。何もない宇宙にぽつんと浮かんだ地球の美しさが白く、青く、浮かび上がっている。外から見ただけでは、この星が変わらなければならないようには見えない。ふっと視線を移してガラス面に映ったアレルヤを見ると、彼は何故か少し瞼を伏せ寂しげな顔をしている。何か気に障ることでも言っただろうかと、ガラスから本人へと視線を変える。

「どうした?」
「だって、折角僕が貴方との年の差を一つ縮めたっていうのに…貴方はたったの4,5日でまた差を広げてしまう」

一瞬、自分の中の針が止まったような気がした。アレルヤは言った後に後悔しているのか視線が落とした。
貴方の誕生日と僕の誕生日の間が、もっと長ければいいのに。そう呟くアレルヤは、本当に残念そうだ。
---まさか、アレルヤがそんな風に思っているとは考えてもみなかった。
驚きに目を開く。

「アレルヤ…」
「僕は…貴方と少しでも対等でいたいのに…すいません、こんな話」

眉をさげ、困ったように笑う。普段はあまり本音を隠して話してくれないアレルヤの、本心からの言葉。いつも自分ばかりが彼が大きくなればいいと思っていた。けれど、彼だけが年をとるわけではないのだ。自分と彼の間にある片手で数えられる年数は、どう頑張っても埋めることが出来ない。自分以上にアレルヤがそれを痛感していると言うのは、先程の言葉や表情から充分うかがい知れた。酒にまだ慣れていないせいか少し赤く染まった頬、きっとアレルヤの本心を引き出したのは酒の力もあるだろう。
何か言葉を掛けようと思うが、酔っぱらってもいないのに上手く舌が動かない。今の告白を冗談で流すのが妥当でない事くらい俺にだってわかる。ただ…こういう時になんと言って良いか解らず、言葉を探してただ視線を彷徨わせてしまう。24年間生きていても、肝心なところは何も成長していないのかも知れない。
そんな中、アレルヤの腕時計が0時を告げるアラームを鳴らした。短い電子音が今までと違った色の世界を広げていく。3月3日という世界を。

「……お誕生日、おめでとう御座います。」
「ありがとう。」

柔らかい笑みを浮かべたアレルヤがそっと俺の腰を抱いて、そのまま彼の方へ引き寄せられる。
近づく毎に濃くなるアレルヤの香りに先程とは違った意味で視線を下げた。俺が、そうやって引き寄せられるのが好きだとか、教えてもいないのにいつもピンポイントすぎる。

「コレでまた、5歳差ですね。ちょっと、残念です」 

残念です、なんて良いながら米神や額に唇が落とされる。本当に、この年下の恋人はムード作りがうまい。いつもならくすぐったくて逃げてしまうけれど、なんだか今日はそれが少し悔しくて…そのままアレルヤの肩に額を擦りつけた。アレルヤの黒髪がさらりと頬を撫でる。甘えるような仕草をした途端、驚いたように息を吸う音が聞こえる。ざまぁ見ろ。
でもやはり恥ずかしいものは恥ずかしいので、額をつけたまま見られるわけでも無いのに目を閉じる。すぐそこに鼓動を感じる、気のせいじゃない早さのそれに何故か自分もつられるようだ。

「何が残念だ。お前らみたいなタイプの違う二人を乗りこなそうと思ったら、そのくらいの年の差が丁度いいんだよ。」

自分で何を言っているのか分かっているだけに、少し早口になる。この年下は、どうも考えなくても良いことをうじうじ考える節があるし、その片割れは早とちりな上喧嘩っ早いときている。どう言ったら二人を納得させられるかなんて解らないけれど、ただ一つ今の俺に言えることは、もっと気楽で良いって事。

「大体、今だって手に余る程なのに。コレが対等だったら、俺の身体がもたないだろーが」
「ロ、ロックオンそれって…」
「五月蠅い」

恥ずかしい言葉を再確認しようとするアレルヤを一括。
すると今度は、聞けない変わりにぎゅっと強く抱きしめられる。痛いほどの抱擁に眉を顰めたけれど、好きなようにさせてやった。





別に、この先の55回を一緒にいてくれなくても良い。
その内の、今から5回…できたら10回、一緒に祝ってくれたら。
それだけで、俺の世界は色をもつよ。











「お礼だ。ありがたく…受け取るように。」




尊大に言い放ち、形のいい唇へと静かに口付ける。
触れるだけで離れたそれに、アレルヤがふっと笑ったのが空気で見て取れた。












兄貴誕生日おめでとーーー!!!
そんでもって、大好きだーーーーーーーー!!