*宇宙空間なのに色々おかしいです、でも気にしないで読んで下さい(ぁ
  だって宇宙なんて行ったことないんだもの。













やっぱりな、ほら。って、思うに決まってる。
特に何も期待してなかったけど。










帰り路の先、落日






アレルヤに支えられ、自室に戻る。ドアを開けると目覚めた時と同じ、何もない空間が広がっていた。
アレルヤはロックオンの躰を手早く整えたベットに横たわらせると、上着を脱がせアンダーだけにしその上へ布団を掛ける。初めこそ抵抗を感じていたロックオンだったが、自分では上手く躰が動かせないことに溜息をつき、されるがままになっていた。"横になる"という動作に躰の緊張が緩んだのか、深く息をつくだけで躰が沈むようだった。吐息が熱く、眼圧も上がっている。心なしか悪寒もするような気がする。ゆっくりと目を閉じるとアレルヤの冷たい手が額を覆った。
「熱…あがってますね。薬飲めますか?」
すみません、勝手に部屋をあさって。本当は何か食べた方がいいんですが…と付け足しながら、錠剤が二つ差し出される。今さっき吐いたばかりなのに、これ以上何か胃に入れたらまた繰り返しだ。ロックオンは思い頭を横に振り、何も食べたくないことを暗に示すと錠剤を取る。寝たまま口に入れると、次いで出されたドリンクの吸い口を銜え流し込んだ。硬いものが喉に当たる感触に思わずえずきそうになるがどうにか堪える。ここで吐いたら寝るところが無くなる。
ロックオンが薬を飲み込んだのを確認すると、アレルヤは先程脱がした上着のポケットからマイスター全員に支給された携帯電話を取り出す。アレルヤはその硬質な、手に収まってしまう小さなそれを手に、ロックオンを振り返った。
上がってきた熱に短く息をつくロックオン、嘔吐後の紙のような顔色から一変し、熱のせいで顔が火照っていた。
ロックオンは、刹那と自分は肉体関係だけだと言った。その事に驚かなかった訳ではない。
それでも、今の彼の言い分を聞く限りでは"肉体関係しかないから心配は必要ない"と言わんばかりではないか。むしろそっちの方が悪い。肉体関係だけだからと言って、相手の躰をここまで酷使して良いはずがない。しかも、それを何とも思わないなどと言うのは少しどころかかなりおかしい
少々性格破綻している刹那だが、それよりも気になるのは何故ロックオンがそのようなことを許しているかだ。
自分に支給されたものと同じ型のそれを操作し、刹那の番号を呼び出す。。もしかしたら、刹那は今のロックオンの状態を知らないだけで、言えばすぐに看病に来るかも知れない。
「…連絡、しますからね」
「アレルヤが、期待してることなんて起きない……無駄だと思うけど…」
熱のために掠れた声で、どこか諦めた台詞を言う。
(期待してることって…なんですか。貴方は何も、期待していないの…?)
「やってみないと、わかりませんよ」
コールボタンを押す。それをだるそうに眺めていたロックオンは、布ずれの音を響かせ何かを拒絶するようにこちらに背を向けた。


2,3…4回目のコールで刹那が電話をとる。
『…なんだ』
「刹那、アレルヤです」
名前を告げると、持ち主とは違う者からの電話に刹那が訝しむ空気が伝わる。
エクシアの整備を出窓から見ているのだろう、整備路ポットたちの立てる音がバックに響いている。
「何で僕がロックオンの携帯からかけているのか、わかる?」
帰ってくるのは、沈黙。背を向けながらも聞いているであろうロックオンへ、ちらりと視線を向ける。
「ロックオンが体調不良で倒れたんだよ。君に責任があるだろう、整備を抜けてこっちに…」
『行く必要はない』
ぴしゃりと言ってのけられた言葉に思わず固まる。いけない、ではなく"必要がない"ときた。なんとなく、ロックオンを見ながら話すのは気が引け、背を向ける。
「何故?彼の躰に無理を強いたのは君だろう」
『受け入れたのはあいつだ』
そしてその言葉を言い終えるや否や、断たれる通信。ぶちりと切られたそれは、定期正しくなじみ深い電子音を響かせた。あまりに自己完結すぎるそれに、思わず声も出せずに携帯を見詰めた。通話時間は30秒足らず。まったくもって、理解できない。何故自分によくしてくれる人間の不調を聞いて、何も反応がないのだろう。
「…会話、終了。だろ?」
聞こえた声に振り向く。以前こちらに背を向けたロックオンが発した言葉だった。
冷めた、とも、楽しげ、ともとれる不思議な声の調子。手に持った携帯を机の上に置く。ロックオンの問い掛けに「はい」と答える気にはとてもなれなかった。得も言われぬ感情が、沸々と湧き上がる。まるでこうなることが最初からわかっていたような口ぶり。
「…あなたは……、それでいいんですか?」
もっと言いたいことはあった。けれど、それをロックオンにぶつけるのは相手が違うとわかっている。
だから控えめに、問うた。背中に向けて投げた言葉は、少し酷だったかも知れない。
ロックオンの背中はぴくりとも動かず、しばらくの間の後
「仕方ないだろ」
それだけを言うと、彼は背を丸め布団を深く被った。
……ロックオンは、優しい。その事をアレルヤは身をもって知っている。年上と言うだけではない、包容力。何度自分もそれに助けられたことだろう。彼は、誰かのために身を砕ける人だ。しかし、自分はその見返りを何も求めていない。最初から帰ってこないものと思っているのか、それとも。
かくいう自分もついつい甘えてしまいがちになるが、いつまでもそれに甘んじていられないことも知っている。
(あなたに何か返せるとしたら…今は、これしか思い当たらない)
「眠って下さい。氷嚢…とってきますから」
返事は、無かった。サイドテーブルに置かれたボトルに水が充分あることを確認し、部屋を出る。無機質なプトレマイオスの廊下がライトに照らされ、白く伸びていた。向かうのは、刹那のいる整備ドックだ。














アレルヤが部屋を出て行く音を聞き、ロックオンは横にしていた躰を仰向けの体制に戻す。見慣れた天井が熱で浮かんだ涙で歪む。先程の電話口のアレルヤを見る限り、刹那はここへ来ることを拒否したらしい。わかっていたことだけに、特に何も思わない。
刹那の世界はエクシアでできていて、彼の信じるものは今のところエクシアだけ。電話をしたところで取り合ってくれるはずもない。
自分が刹那の世界のどの部分を占めているかなど、刺して興味がなかった。大きく息をつくと吐息の熱さに喉がひりひりと痛む。
(我ながら…不毛だよなぁ)
最初から何も求めていなかったと言えば嘘になる。それでも、今は違う。期待したところで得られるものが無いと知っている。得られたとしても、それを素直に喜んで良いのかどうかも怪しい。…男同士で性行をしている事自体が既にもう色々アウトだというのに。上がってきた熱に体力が消耗しているのか、瞼が重くなってくる。抗うこともせずに瞼を閉じると、ゆっくりと思考が落ちていく。起きたら熱が下がってると良いな、そんなことを考えながら彼は闇に身を任せた。















大人げないとわかっている。けれど、ロックオンからみたら自分だって子供だ。…少なくとも、今殴り飛ばした刹那よりは、年上なんだけども。
普段自分はこんなに激昂することはないと、アレルヤは壁に手をついて起きあがる刹那を見ながら思った。整備ドックの丁度上に取り付けられた整備を観察する出窓がある。そこにある端末やら何やらを見ながら、いろいろと調整する部屋だ。マイスター達は新しい装備や調整の度にそこへ赴き、整備の様子を観察する。
目的地についたアレルヤがまず取った行動は、扉をあけ、出窓の真ん前にいた刹那の処まで行き、名前を呼ぶと同時に一発殴りつけるというものだった。運良くというか悪くと言うか、刹那と行程が同じはずのティエリアの姿はなかった。
「君は甘えすぎだ」
完全に起きあがり、切れた口元を拭っている刹那へ言葉を投げる。今にも殴りかかってこんばかりの目で睨む刹那の視線を、真っ向から受けた。いつもならば、こんな視線を向けられたらぎくりとしているだろう。でも、今はそれを上回る感情が出口を求めてぐるぐると渦巻いている。
「ロックオンが受け入れたと言ったね。…彼は、誰でも受け止めてくれるよ。僕も、ティエリアも」
出会ってから、あまりお互いに干渉しない、まとまり無いマイスター達を一人一人構ってくれたのは彼だった。最初の頃など、ティエリアや刹那に辛辣な言葉を何度も言われていた。それでも彼は「また明日があるさ」と言い、その言葉どおり翌日も同じように声をかけた。ロックオンがいなければ、今のマイスター達の関係は無い。
「でも僕らには君としているような行為は許してくれない。例え、僕らが頼んだとしても」
この意味、わかる?そう問いかけると、刹那は一層双眸を細めた。
「…何が言いたい」
「君は許されていると言いたいんだ。でも君はそれに気付いていない。当たり前のように、求めれば手にはいるって思っているから。……今までに、ロックオンが誘いを断ったことがないから、だろうけどね」
思えばあの優しい同僚は、最初からこの子供に付きっきりだった。彼の過去の何かが、子供ながら戦地へ赴いていた刹那を放っておけなかったのかもしれない。嬉しい、や喜ぶといった感情を満足に表せない刹那をどうにかして元に戻してやりたいと思っているのだろう。だからこそ、自分がやれるものは全て与えてやろうと、求められれば応えてやろうとしているのだろう。
(あの人は、何も期待してないけれど)
「コップの水だって、飲んでばかりじゃ無くなる。求めてばかりでは、やがて無くなってしまうよ」
比喩した言葉を解したのか、刹那の眉がぴくりと動き、口を開く
「あいつは…いなくならない」
「それが甘えだと言ってるんだ。いなくならなければ、何をしても許されるのかな」
君は、自分を何様だと思っている?付け足すようにたたみ込む。刹那は何も返さず、視線を逸らす。沈黙の流れるこの部屋に、外から聞こえる整備の音が響く。何か言いたげに瞬きを繰り返す刹那。今まで、ロックオンが刹那に何も求めてこなかったツケが、ここに出ている。彼が何も求めたかったから、刹那は今自分が何故責められているのか、何がいけなかったのか、必死に考えているのだ。でもそれは、考えてどうにかなるものでもない。刹那が言葉を選ばなければならないのは、アレルヤの為ではなく、ロックオンの為なのだから。
「…考える暇があったら、彼の処へ行けばいい」
無言の刹那の腕を掴み、出口へと引きずっていく。それに抵抗するように整備中のエクシアへ視線を送る刹那。
「整備が」
「エクシアの整備は君がいなくても出来る。」
続いた言葉を強めの口調で遮り、パーテーションから小さな身体を放り出す。器用に体制を整えた刹那が、物言いたげにアレルヤを見た。出来ることなら、自分がロックオンに与えてやりたい。でもそれは、彼が必要としてくれるならばの話で。
「でも、ロックオンに何かを与えられるのは、君しかいない」
ドアロックのボタンを押すと、硬質な扉が刹那とアレルヤの間を分断する。再度この部屋に刹那が入ってきたら、もう一回殴るつもりでドアの前に構えていたが、しばらく待っても何も変化が無いのを受けアレルヤは息を吐いた。刹那を殴った拳が今になって痛い。
(…意外と僕って、大胆だったんだな…)
赤く染まった拳を見詰めながら、意外な自分の一面を知り驚く。自分の内面にいるハレルヤが、鼻で笑ったのを感じた。























出口のない感情は螺旋を描き
   名前のない想いは、心を求めて彷徨うばかり