注)ハムとニールは結婚しています。
  いろいろ経緯はありますが、とりあえず仲良しです。
  ニールとハムは新居に引っ越しています。
  ハムはユニオン勤務、ニールは…未定です。















エーカーさんちのお家事情








念願の眠り姫を手中に収め、新婚という素晴らしい期間を過ごし始めてどれくらいの時が経っただろうか。
我妻は口は悪いが思いやりにあふれ、その上あのガンダムに乗っていたというパーフェクトな器量の持ち主で
かなりの美人ときた。本当ならば毎日定時に上がって早々に帰宅したいところだが、部下の手前そんなことも出来ず
尚かつ今抱えている仕事が大詰めを向かえているため、帰宅が遅くなることも多い。
今日はなんとか仕事が一区切りついたので部下達に早く帰るように言い、やっとこさ自分も帰途につくことができたのだ。

車から降りてローンを組んで買った(ニールは賃貸でいいといったが、やはりここはローンでマイホームだろう!)我が家の階段を上る。日々帰りが遅いのと仕事内容を加味しても、身体が疲れていても良いと思うのだが…やはりそこは妻の帰る家へ早く帰れるという喜びのためか足取りは軽い。革靴の底に羽でも付いているんではないかと疑うほどだ。ちなみに、外回りに軍服では動きづらいため今日はスーツだ。
(我妻がネクタイを選んだ上に、締めてもくれた。しつこく頼みすぎたせいで…若干窒息の危機を感じたが)
今まではそっけない軍の宿舎に独り暮らしというだけあって、帰宅しても暗く無機質な部屋へ寝る為だけに帰っていたが、今はそうではない。階段を上り終え玄関扉の前に立つと、その隣のリビングの窓から漏れ出る明かりが見える。
外が暗い分、温かなオレンジ色の照明がゆらゆらと輝く様はその色の通り暖かみを表しており、思わずほっと息が漏れた。軍人である自分が、柄にもなく"帰ってきた"と実感するのはこういう時だ。良くカタギリが、誰かが待っていてくれるのはいいよ、等と言っていたがその気持ちが痛いほど良くわかる。あぁ……何という幸せ!この状況を一度でも味わってしまうと、どうして自分があんな味気ない生活で満足できていたのかわからなくなるから不思議だ。



「今帰った!」

本当は帰ったぞマイスウィート!くらい言いたいところだが、昨日同じ事を大声で言ったために瞬速で右ストレートが飛んできたのであきらめる。キッチンの方からふわりと旨そうな匂いが漂い、「はいはい」という声が聞こえた。携帯で早く帰る旨を伝えていたので、どうやら夕食の準備をしているらしい。
以前から何かと料理を作ることが多かったようで、我が妻ニールの料理の腕は確かだ。いや、例え下手でも愛情がこもっているから美味いに決まっている。とにかく、玄関での「会いたかったぜグラハム!」「あぁ私もだマイハニーー!」そして固く抱き合う二人…的なお出迎えは期待できないようなので仕方なく一人でキッチンに向かうことにする。ここでごねたら、多分「ふざけんなこの野郎!」と罵倒されることだろう。
今日も今日とて打ち砕かれた野望に小さく息を吐き、いつものように革靴を脱ごうと無意識に考えたのと、キッチンからニールが黒のエプロン姿で
顔を出すのはほぼ同時だっただろうか。

「今日は早かっ……ぅおおおおおおおおいっ!」

習慣で何も意識せずに行動していると、顔を覗かせた我が妻が瞬間ものすごい形相に変わり
素晴らしいスピードで走り寄ると私の手をがしりと掴んだ。あまりの早さと勢いに思わず面食らう。

「ニ、ニール一体どうし…」

そこでハッと我に返った。我妻が掴んでいるのは…私の手だ。
そう、手だ。そしてその手のある位置に問題がある、あぁ、激しくある!
何故ならばその手は、今まさに履いているスラックスのジッパーを下げて……




ジ ッ パ ー を 下 げ て … ?






「なっ 私は一体何を…っ」


何故に靴を脱ぐはずがスラックスのジッパーを…!?
確かにあの時「靴を脱がなければ…」と思ったはずなのに、何故!?
半分下げたジッパーを掴んだまま衝撃に打ち震える私を、どこか気の毒そうに見詰めたニールが静かに…
そう、極力静かに掴んだ私の手ごとジッパーを上げた。手に伝わる微かな振動が悲しい。
(ニールにジッパーを下げさせる妄想はすれども、上げさせる事など考えもしなかった…!)


「わ、私は…疲れているのだろうか…」


だとしたらこれは精神的な方に違いない。身体の方はまったく何の支障もないのだから。
靴を脱ぐことをこのような行為に間違えるなど、何かおかしな病としか思えないだろう!?
あぁ…、二人はこれからだと言う時に私は一体…

「ニール…すまない、まだ新婚だというのに私は…私はこんな病で死んでしまうのか…っ」

「は?…ちょ、アンタ大丈夫か!?今ので頭のネジすっとんだのかよ!?」

「きっと私は何か悪い病だ…でなければこんな奇行をするはずが…」

「確かに今日のはアレだけど…や、アンタの奇行は今に始まった事じゃないだろ」

この先の家族プランがガタガタと音を立てて崩れていく音に、半ば縋り付くようにニールの両腕を掴み抱き寄せる。思いっきり胸元に付かれた両腕が肋骨を圧迫したが気にしている暇はない。
(密着しようと腕に力を入れる毎に呼吸が苦しくなるのは、妻が恥ずかしがり屋だからだろう。)
サラサラと流れるニールの髪から香る、私と同じシャンプーの匂いがなんと愛おしいことか…!
いつか我妻を抱きしめたいと思いながら、実はスラックスのジッパーを下げたりしている…なんてことになるのだろうか
それはもう変態ではないか!

「私は…私は変態になってしまうのか、ニール!」

「大丈夫だ、安心しろ、アンタは既に変態だ!」

力強い妻の言葉に思わず頷きそうになるが、思いっきり否定したい事実を肯定されている。
しかもその目はものすごく真剣だ。

「いつ、私が変態になったというのだ!私はいつも紳士であり…フラッグファイターとしての誇りをもって…!」

「アンタ刹那のこと追っかけ回しまくってただろーが!ちょろちょろ戦場に出てきは俺らの邪魔して、ガンダムのケツ追い回してよ。刹那なんかマジでお前のこと嫌がって、一時期本気で泣きそうになってたんだからな!」

な、泣くほど嫌だったのか…あの少年。
以前挨拶をしに行った際にみたニールの弟分の一人の姿が目に浮かぶ。…確か、ものすごく嫌そうな顔をされたのを覚えている。…そうか…そうだったのか…。

「それは任務でのことだろう!た…確かにガンダムは魅力的だったが…!」

「さらにその上、俺のデュナメスの上にのっかって"眠り姫"だとか何だとか言ってたんだろ!?アンタの部下にこの間聞いたぞ!他にはなんだったかな…"運命だ"とか"乙女座の私は我慢弱い"だったか?お前もうコレ、ストーカーの域だからな!」

「なっ…」

あまりの言われように反論することが出来ない。わ…私はストーカーなのか?確かにガンダム拿捕のため追いかけ回した。その上あまりの愛おしさにそのような事を口走ったような気もする…。考え込む私をよそに、腕の中のニールは一通り言い終えると、大きな溜息をつきやれやれと肩をすくめている。

「アンタの変態は公式すぎるんだよ。…でもまぁ、今の出来事は家の中の事だ…俺以外は誰も見ていない」

「いや、我妻であれども見られたことはショックなのだが…」

「今までのアンタの変態っぷりに比べたら可愛いモンだしな。だから安心しろ」

「ニール…」

ものすごく何度も変態と言われた気がするが、ニールは私の全ての部分をひっくるめても私を許してくれるというのか!こんな…こんな奇行をする私でも…!!
思わず抱きしめ返そうと再び両腕を広げるが、ニールの素晴らしい右フックによってそれは完璧に阻止され…。
ほら、飯が冷めるぞ。そういってキッチンへ去っていく我妻の後ろ姿を見送りながら、私はニールの心の広さと器量の良さ、あともうなんというか言葉では言い表せない「ニールの愛(主に暴力)」に一人涙したのだった。
























murmurで書いた自分の体験をグラロク夫婦にやらせてみたら、多分こんな感じ(笑)
うちのグラハムは微妙にMの様な気がする。殴られながら「あっれー?」とか思いつつ
ニールの笑顔に「やはり愛だ!」とか勘違いしてしまうアホの子グラハム。
本当はもっと男らしく書いてあげたいのに、本編の彼がアレだからどうしても…!
本当はただ、ニールに変態と言わせたかったのと、変態なところもひっくるめて認めてるんだよ!実は!
というのを右フックとともに伝えたかっただけです。(何