注)いろいろと無理があります。もうノリだけです。あんまつっこまないでください。






ソレスタルビーイングのことを、話したくなければ話さなくても良いと言われた。
しかもそれは、話さなくても死に繋がることはないという。
でもその代わりに「君の名前を教えてくれ」と謎の条件を持ちかけられる。

話さないことと、名前を教えること。
摩訶不思議な二択の選択肢に、俺は本当に、戸惑うばかりだ。

わけがわからないまま己の名前を口にした。
それがかなりの大失敗だったことは、この後すぐにわかるのだけれど。








汝、愛を知る者よ


















「・・・・・・・ロックオン・ストラトス」

「ロックオン・ストラトス、か。狙撃タイプのガンダムを操る君にぴったりだ」


偽名とわからないはずが無いにも関わらず、グラハムは満足そうに呟く。そしてユニオンの制服の内ポケットに手を伸ばすと何やらたたまれた白い紙を取り出し、ロックオンからは見えないベットの上で何かを書き始める。ペンの走る短い音と「よし」という声で、それが長文でないことがわかる。なぜか後ろにいるカタギリは曖昧な笑みを浮かべてこちらを見ている。彼はグラハムが今何をしているかを知っているようだ。何をしているのかが全くわからない自分を捨て置き、グラハムは身の上にかけられたシーツの左手の部分をまくり上げると、何やらひんやりと柔らかいモノを親指の部分に押しつけてきた。拘束されているために全く見えず、何が指に当てられているのかわからないロックオンは、命よりも大切といえる狙撃手の手のひらへの刺激に初めて声をあげた。


「アンタ何やってる!?」

「動くと傷が増える。大丈夫だ、すぐに終わる」


身をかがめ、まるで跪くかのような姿勢をとったグラハムが近い距離で微笑む。
何がすぐに終わるのか、と大声で問いたい気分だった。もしかして新薬の実験か何かなのだろうか、今更になってじわじわと恐怖が背を駆け上がる。拘束された手のひらから、じっとりと嫌な汗が染み出していくのを感じる。やがてグラハムは先程なにやら書いていた紙を手に取り、それを親指に押し当てた。薄っぺらい、かさかさとした感触が中指、薬指に感じられるので間違いないだろう。しっかりと一部の隙もなく紙と親指を密着させられたかと思うと、ゆっくりと離れていく。


「上出来だ…」


書き上げた紙を目の前に掲げ、感動した様な声を漏らすグラハム。
盛大な溜息を漏らし天を仰ぐカタギリ。対照的な二人の反応に困惑の表情を隠すことが出来ない。


「一体…、あんた一体何したんだ…」


拘束されて動けないながらも、動かせる所をフルに動かし身を起こし、噛みつくように低い声で呻る。
穏やかでない声を聞き止めたグラハムは書類から顔を出し、何故か俺ににっこりと笑って見せた。
そしてゆっくりと俺の手へと顔を寄せ、次いで小さくキスの音が響く。


「なっ」


驚きの声を上げる俺をよそに、グラハムは手にした紙を反転し、わざわざ俺に見えるようにと突き出した。真っ白い紙に並ぶのは見たこともない住所やらなんやら。
そして何故かその書類の一番下に据えられた己の名前と、赤い押印。どう見ても指紋のそれは、先程グラハムが何をしていたかを物語っていた。だが一番の問題は、その書類が何かと言うことだ。そして、自分の名前の隣に、一体何が並んでいるのか。
さっと目を通しただけでもわかるそれに、絶句しものも言えなくなる。
ぱくぱくと口を開けたり閉めたりを繰り返しながら、書類とグラハムを交互に見遣る自分へ、グラハムは最後通告とも事後報告ともつかない言葉を、高らかと言い放った。


「これで晴れて我々は夫婦だ!」

「アンタ阿保だろ!?」

突っ込むなと言う方がおかしい。
目の前に差し出された書類、自分の名の隣に並ぶのは、何故か"グラハム・エーカー"。
そして書類の一番上には"婚姻届"としっかりと印刷されており、ご丁寧にもそれが本物であるという刻印まで押されている。思わず突っ込んでしまうのも致し方がないというものだ。
質の悪い冗談としかとれない。というか、まず第一に捕虜にこういう事はしない。第二に、俺は紛れもなく男であること。…まぁ、男でも結婚出来る国もあるけど…。そして第三に…意味がわからん!!


「君がどうしても口を割らない時は、好きにして良いと言われてね」


いや、もうそれ好きにしろの意味違うから!


「ちょ、アンタ笑ってないでコイツの間違いを正してやれよ!!」


素晴らしいほどに勘違いしたこの男、グラハム・エーカー。思わずカタギリに助けを求めるように視線を送るが、彼は笑顔のまま気の毒そうに首を横に振るだけ。嫌な汗がさらに吹き出し、心なしか部屋に響く電子音が早くなっているように思う。


「僕は人の恋路を邪魔して馬に蹴られたくないからね。あ、この場合はフラッグかな?」


うまいこといったつもりか!?
ようやく口を開いたかと思えば阿保な事を口にする眼鏡に殺意が芽生える。
しかも金髪碧眼の王子様は俺の声にも全く反応せず、自分の世界を展開中だ。
ヤバイ、やばいぞユニオン。俺はこんな阿保共に拿捕されたのか!?
あの勇壮なフラッグの操縦者が、この阿保だと言うのかぁ!?
アホすぎる眼鏡と金髪に、俺は色んな意味でえらいところに拿捕されたもんだと内心頭を抱えた。








「それに、あのガンダムのパイロットは一体どういう人間だろうと、ずっと考えていたのだよ」


すっと細められる眼差し。身を起こした枕元に手をつかれ、ベッドが軋んだ音を立てる。
そのまま囲い込まれるように反対にも手をつかれ、必然的に近くなる距離に起きあがっていた身体をベットに倒す。男に至近距離で顔を見詰められる趣味がない、というのもあったが、グラハムの視線は近くで見るには熱すぎて、目をそらすには勿体ない。なぜかそう思ってしまうほど、真摯だった。
…おい、ちょっと待て。何が真摯だ、俺。実は目が覚めるまでに変な薬でも打たれたのか!?



「コックピットに座る君を見た瞬間、恥ずかしい話だが…恋を知らない少年のように胸が高鳴ったよ」


「や、充分恥ずかし…」


「一目惚れ、というやつだ。諦めて私のものになってしまえばいい」


「…ちょ、顔近いっ」


後ろは枕でこれ以上ないほど逃げ場がないというのに、徐々に近づいてくるグラハム。
ひぃい、止めてくれ!!言っておくが、自分に男色の気は断じてない。こうやって顔を近づけられても、危機感を感じれども嬉しいと思うことなど万が一あるはずもない。しかも相手は自分を拿捕した敵方の男。古い中世の話じゃあるまいし、敵国の姫に恋をして連れ帰った騎士だとでもいうのだろうか。
全く持って、笑えない。大体そう言う話は、現実世界ならばハッピーエンドになるはずがない。なり得ないのだ。


「君が私の伴侶とならなければ、火刑台に上らされるということはわかるな」

「----っ」

「この書類が受理されれば、君が尋問にかけられることも、ないのだよ」


ただ、私の願いを叶えるだけでね。と低く付け加えられる。先程までとは違う、有無を言わせぬ声色。彼が続ける言葉によれば、事実上グラハムの監督下に置かれるということになり、ロックオンはある程度の自由を得ると言うこと。しかしそれには法的効力のあるものが必要であること。彼はロックオンの能力を高く買っており、それが失われるのが酷く惜しいということ。…そして


「君の事が、好きなのだよ」

馬 鹿 が い る ぞ 、 オ イ ! 

どうしてだか良く解らないが、この男が自分のことを好いていると言うこと。
目が覚めていきなり自分を拿捕した相手と結婚を迫られている、そんな意味のわからない状況に誰がなると思うだろうか。しかも勝手に書類を作られたかと思えば、半脅迫じみた事まで言われ、その舌の根も乾かないうちに愛の言葉を囁かれているのだ。目の前に広がる金髪紳士の(黙ってれば)暴挙に振り回されるばかりで、自分からは何も出来ないことが口惜しかった。


「…俺は、命惜しさにそんな契約にはのらない」


瞳を反らしそう伝えると、グラハムは駄々を捏ねる子供を見るような目して小さく笑いを零す。
そしてロックオンの上から身を引くと、ベットサイドに放置した婚姻届を大事そうにたたみ、胸ポケットへとしまう。そして大事なものが入っているのを確認するように、制服の上から二度、三度そこを撫でた。


「カタギリ、後は頼んだ。私はコレを届けてくる」

「ちょ、待てよ!アンタ人の話聞いてるのかっ」


扉へ向かい歩き出した相手へ焦ったように声を上げる。
俺は絶対に嫌だからな!と、まるで子供のような言葉を口にすると、軍人らしくすっと伸びた背が動きを止め、肩越しに不敵な笑み。


「なら私を止めるか?両手両足を拘束された状態で出来るなら、だが」

「・・・このっ!!」


鼻で笑われ、頭に血が上る。擦り傷が増えるのも構わず拘束を解こうとがむしゃらに暴れるが、一向に緩む気配すらない。そうしている間にも、グラハムは歩みを進めやがて部屋を出て行ってしまう。
嫌だった。婚姻?結婚?伴侶?それで尋問が無くなる?そんなの嘘だ。ただ婚姻という法的な首輪をかけられて、一生あのグラハム・エーカーの機嫌を窺って生きなければならないのだ。
自分はそんな事をするくらいなら、火刑台に送られた方がマシだ。大体この俺が、どうして男と結婚!?命惜しさに男に身を売るくらいなら、潔く自分で頭を打ち抜く!!


「アンタらは一体何を考えてる!?俺に何をさせたい!?」


部屋に残されたカタギリへ吠えるように問う、彼は悲壮なまでの俺の叫びを聞いても何も表情を変えず、ただ先程から浮かべている困った笑みを返すだけだった。忌々しい拘束は皮膚を破り、皮膚は血を流して白いシーツへと移っていく。


「何も考えていないと思うよ、グラハムは。君が思うような事はね。
さっきだって、一体何であんなに怒鳴っていたと思う?」


逆に問われ、意味がわからず瞬きを繰り返す。カタギリは先程の事を思い出したのか深い溜息と呆れたような顔を浮かべ、もったいぶるように少し間を開けた。くそ、早く言えよ眼鏡!という台詞は一応飲み込んでおく。


「君の着替えを担当した研究員にね、"人の嫁になるかもしれない相手の裸を見るとは良い度胸だ"ってさ。全く、彼の一つのものに対する執着心は並じゃないよ」


それは執着心というよりは、変態だ。


「・・・・・もしかしてアレか、単純に…」

そんな理由で怒鳴られたんじゃ研究員が悲惨すぎる。しかも男の身体だ、好きこのんで着替えさせたとも思えないにもかかわらずだ。なんとなく嫌な予感がして、控えめに言葉を挟む。言いよどむ自分の言葉を会話のキャッチーボールのお手本のようにカタギリが器用に受け継いだ。


「あぁ、色々あるけど…本質的な部分では、君に惚れてる」

「・・・・・・・・・・」


開いた口がふさがらない。一国の一軍人が、そんな阿保な理由で捕虜を娶れるものなのだろうか。全く持って、阿保臭くて仕方がない。


「本人もまぁ、いろいろと無理があるのは承知なんだろうね。でも君を尋問やら、なんやらから助けるためには今の方法しかない、って思ったんだろうけど」

「馬鹿げてる…」

「言ったろう?大変なことになる、って」


したり顔で言われても、言い返す気力もない。力を抜いてベットに逆戻りすると、カタギリの「ロックオン…エーカーか…ゴロがわるいね」という呟きが聞こえ、本気でここは馬鹿しかいない組織だと再確認した。もうなんというか、マイスターに合わせる顔がない。











刹那、アレルヤ、ティエリア…ごめん。


どういう事か、俺は、阿保なフラッグファイターの元へ嫁ぐようです。