注)いろいろと無理があります。もうノリだけです。あんまつっこまないでください。




















ユニオンの軍人は、一体どれだけの給与を得ているのだろうか。
それとも、自分が拘束されていた部屋の広さに目が慣れて、ただ錯覚しているだけなのか。
無意識にソファに座り¥ったまま指先を組んだり離したりを繰り返す。
対面型のキッチンでコーヒーを我が物顔で入れるグラハムに、ソファでくつろいでいるカタギリを見る限りではこの部屋はグラハム所有物と考えて良いだろう。白を基調としたデザインに木の深い味わいがプラスされた、落ち着いた雰囲気。必要な家具しか置かれておらず、このキッチンダイニングの他にバス、トイレ独立型で
あと2部屋ほどあるようだが、実質使用されているのはこの部屋だけのような気がする。
理由はただ一つ、部屋のまとう生活感のレベルが違うから。
部屋の中を眺めている姿をカタギリに見詰められている事に気付き、どことなく気まずい気持になって俯く。パイロットスーツは没収、検査用ワンピースじゃ外にも出れない ってことで、グラハムに買い与えられた服は黒のVネックとジーンズ、あとミリタリーチックなブルゾン。俯いた先の自分の手首には、しっかりと拘束具で擦れた裂傷の後が残っていて、ソレを隠す意味で黒Vの袖を引いた。
俺がユニオンに拿捕されたのが6日前。
2日間眠っていて、起きた3日目にグラハムに詐欺られて、4.5日と検査をされて、6日目にはここへ連れてこられた。詐欺…られたというのは、あれだ、あの、何故か俺がグラハムと結婚することになったというアレで。
そんでもって、追加して言うなら、6日目の今日、それが受理されたらしい。…法的に。
拘束具を解かれ服を着て、「ゆっくり眠れるところに連れて行ってやろう」なんて言われて連れてこられたけど(確かにじっぐり眠れていなかったのは本当。)それがグラハムの自宅だなんて誰が思う。こんなところ、よく眠れるどころか居心地が悪すぎて死にそうだ。







My Sweet Sweet Darling!
      〜 結婚報告は事後でおk 〜









グラハムが人数分のコーヒーを持ってソファまで戻り、カタギリの前と俺の前、そして自分の手にカップを配置すると何故か当然のように俺の隣へと腰を下ろす。真ん中寄りに座っていた俺は、グラハムの体重を受け沈んだソファから腰を浮かせ、出来るだけ彼から遠くなるように座り直す。

「本日晴れて夫婦となったというのに、君はつれないな」

「阿保か。大体俺はそんなの望んでない」

「おや、君は同性愛に偏見がある人間だったのか?」


グラハムは身体の向きを傾けソファの背に頬杖を付いて俺を見る。もちろん俺はあいつの方など向いたりしない、がしかし、ずっと横顔を見られている視線を感じるのはかなりきつかったりする。目の端からでも見えるグラハムは余裕たっぷりで首を傾げ、こちらの様子を伺っていた。

「俺はそういう話がしたいんじゃない。アンタ一体俺をどうしたいんだ?」

あの詐欺を働かれた日から今日まで、全く一度も会いに来なかったというのに、来たらきたで「夫婦だ!」とかなんとか高らかに言いやがって。俺の技術に惚れ込んだかなんだか知らないが、そんなのは勝手すぎる。
大体、俺を嫁にしてコイツにメリットはあるのか?俺は話す気なんてこれっぽっちもないし、ボロを出す気だってない。しかも今は拘束具だってされていないから、いつでも逃げられるし、自ら命を絶つことだって可能だ。それに、ここは軍の施設ではなくグラハムの自宅ときている。ここまで多くの手段を自分に示しておいて、こいつらは一体何を考えているんだろうか。逃げ出すのを待っている?俺がここから逃れて、仲間に連絡を取るのを待っているんだろうか。…そうすれば、一網打尽にできる。…でも、俺がその手段をとらないことがわからないほど、グラハムも馬鹿じゃないだろう。
ならば、夫婦という言葉だけを利用した"慰み者"になれ、とでも言うつもりなのだろうか。
ぐるぐると考えを巡らせるが、どれも当てはまるようで、どれもしっくりと来ない。
本当に、全く、グラハムが自分をどうしたいのかがわからないのだ。
俺が何を考えているかなどお見通しであろうグラハムは、考え事をする俺に苦笑を漏らし、足を組み替える。
制服とは違うスーツ姿でも、すらりと長い足は健在だ。

「どうしたい…と言われてもな。これから長い結婚生活をおくるにあたってのプランを聞きたいのか?」

「ブッ お前は馬鹿か!?俺が言いたいのはそういうんじゃなくて・・・!」


放っておけば、「第一子はやはり女か…」等と言い出しかねない勢いのグラハムを声を荒げ、机を叩くことで制す。きっと見据えた先は白い壁と窓が見えるだけで、その窓に切り取られた青い空を泳ぐ雲の白さといったら、とらわれた自分をあざ笑うかのようだった。途端にすっと音の無くなる部屋。カタギリもグラハムも口を閉じてしまい、何故か自分のしたことが酷く子供じみた行為であることに気付いた。でもだからと言って、この状況で「ごめん」などと謝るのはまた違うし、何となく癪だ。


「だから…俺をここに連れてきて、まさか本気で夫婦ごっこを始めようとか思ってるのか、ってことだよ」

「ごっことは失礼だな。確かに強引になってしまったが、私は本気だったのだが?」

「あー、もう。そっちの話はいいから」


俺だって、会って間もない人間の愛の囁きを信じるほど馬鹿じゃない。しかも男。
一向に進まない会話に苛立ちを覚え始める。癖のある自分の髪を手で掻き上げて思わず溜息をついた。グラハムは依然こちらを向いたまま、柔らかな眼差しでその様子を見ていることだろう。…話さなければいい男なのに。あ、や、コレは一般論な。


「君が言いたいことがイマイチわからんな。式の日取りは後々話し合えば良いことだろう?」


あー、駄目だ。こいつホントわかってねぇ。これを素で言っているとしたら、本当にコイツは阿保だ。


「式とかそんなん挙げなくて良い!」

「なら初夜の心配か?一応今日がソレに相応するが…大丈夫、私が夫だかr」

「うわあああっ ちょ、お前黙れよ!!」


一瞬自分が男に組み敷かれる様を想像して鳥肌が立つ。気付けば話を進めようとするグラハムの胸ぐらを掴んでがくがくと揺さぶっていた。ありえないありえないありえない!!!しかも俺が嫁かよ!!あああ、でも逆って言われても俺には無理っ


「無理無理無理!!だって俺男だぜ!?ほら、身体もごついしっ」

「大丈夫だよ。最近はちゃんと男性用ローションもあるし」

「黙れ眼鏡!!」


ほがらかな声で言葉を挟んだカタギリを制する。ホント、いらんこと言うな。俺は今、大事な話をしてるとこなんだ!
必死にグラハムを揺するあまり、彼をソファに押し倒すような形になる。彼がソファに手をついて身体を支えていなかったら、それは実現していただろう。不本意ではあるが。
必死の形相の俺を目の当たりにしているであろうに、当のグラハムは何処か嬉しげだ。


「随分情熱的だな…。」


お 前 人 の 話 聞 い て た か ?



空いた腕で腰を抱かれ、思わず鳥肌のあまりヒィイと情けない悲鳴があがる。大概自分もスキンシップの激しい方だと自負してはいるが、男に腰を抱かれることなんて早々あるはずもない。しかも相手は、95%くらい勘違いしている。俺の願いとしてはその残りの5%の奥行きがかなり広く、一般常識と配慮が所狭しと詰め込まれていてほしい。
最初に会った瞬間と、今ここに至るまでの時間だけでもこの、グラハム・エーカー氏が阿保であることは充分わかった。刹那もそうだったけど、MS乗りは機体を降りるとどこかネジが飛ぶのだろうか。いろいろと手を焼いたが、子供で純粋であった刹那の方が幾分か扱いが楽だった事を、今この男を前にして痛感する。
胸ぐらを掴んでいた両腕は、抱き寄せられるのを防ぐストッパーへと成り代わり、気付けばグラハムはソファに背を着け俺の髪を梳き始める。な、なんだこの甘い雰囲気は。しかもカタギリは男二人の異様な雰囲気も気にせずドーナツをパクついている。もうなんというか、どっと疲れた…。怒鳴っているのは俺だけで、他は全然なんだもんな…。
グラハムもカタギリも、この先のことを知っているというのに、俺一人知らない。知らされていない。
疎外感とかそう言うのを感じているわけではないけれど、自分の身の事であるのに、何一つ情報が与えられないのはキツイ。問うたとしても冗談交じりで返されていては、俺にとっては目隠しで見知らぬ道を歩かされるに近い恐怖がある。


「あ…あんたは、何もかも不慣れな俺に無体をはたらくつもりなのか…?」

「そんなことはしない。」

「じゃあなんで…」


夫婦だ、結婚だ、初夜だとか散々人に言っておいて"そんなことはしない"なんて信じられるか。
相手の真意を掴みかね、不安に思っている気持ちが表情に出たのだろうか。



「……仕方ないな」


グラハムは諦めたように息をつくと、苦笑する。その意味を図りかね俺は眉間に皺を寄せる。
横髪をグラハムの長い指が掻き上げ、耳にかける。自分とは違う体温が肌に触れる感触に背が震えた。


「捕虜の君を娶るというのは色々と問題があるのだよ。婚姻届受理で法的に君は守られたが、そのことを人々に知らしめる必要がある。…それが挙式だ。初夜は…私の望みだが、すぐにどうこうしようと言うわけではないよ」


言うつもりはなかったのに、と付け加えられたソレは、初めて聞くグラハムの"俺をどうしたいか"だった。
組織のなんたるかは俺だってよく知っているつもりだ。こんな一軍人が世界をさわがすCBの捕虜を娶るのがどれだけ大変か、そんなこと考えなくてもわかる。惚れたとかどうだとかは、やっぱり信じられないけれども。
グラハム・エーカーという人間の本質は、疑わないでやろうと、少しだけ思った。











「…それで、だ。」

「………?」

「君を妻にした報告をまだしていないところがあってだな…」


正直、そんな報告しなくていいって。
髪を梳いていた手が離れたかと思えば、スーツのポケットを探り何かを取り出す。
今頃になってこの体勢がかなりやばいことに気付くが、動こうと藻掻いても腰をがっちりと固定されていては全く離れることが出来ない。向かいのソファに座っているカタギリは同僚の、しかも男同士の美しく無いシーンを見ても特に動じていないようだが、俺が動じる!
バタバタと動き回る俺でも、グラハムの手の中に収まっているモノがどれだけ重要なものであるかは、すぐにわかる。


「それ、俺の携帯っ」

「ご名答。」

紛れもなく、CBから渡された自分の携帯だった。デュナメスに積んだまま押収されたとばかり思っていた。(今でも押収されているんだが)つーか、人の携帯勝手に使うな!!手を伸ばし取り挙げようとするがうまくいかない。何やら履歴を漁っているようだが、一体何処にかけているのか、考えなくてもすぐにわかる。だからこそ焦った。それなのにグラハムは、あろうことか体位を反転し俺を下に組み敷く。見上げた先には白い天井と金髪碧眼。しかも余裕たっぷりときた。逃れようと身体を動かしてみても、さすがは軍人、そこの辺りは心得ている。関節をうまく押さえ込まれて全く動けない。携帯からは無機質なコールが携帯から漏れ聞こえ、電話を切れと抗議しようとする俺の口へ、グラハムが長く美しい指で戸を立てた。












『……ロックオン、が掛けてくるはず、ないわよね』


数回のコールの後に出たのは、スメラギさん。
俺が拿捕された時点で何かしら連絡があると踏んでいたことだろうから…この電話はおそらくプトレマイオスの大画面で通話が放送されているに違いない。拿捕されたのが自分一人だとしたら、他のマイスター達もそこに集まっていると言うこと。そして何より冷や冷やするのは、この阿保野郎が何を言い出すかって事!







「こちらはユニオン、アメリカ軍MS部隊MSWAD所属グラハム・エーカー上級大尉。ロックオン・ストラトスを妻にした者だ。」


「うおおおおおおおおおおおおおおいいっ!!!!」








表現を変えるとか、もっとオブラートに包んだ言い方は出来ないのか!?
グラハムの凛とした声が述べた内容に激しくツッコミながら、自分の情けなさに泣きそうになった。