注)いろいろと無理があります。もうノリだけです。あんまつっこまないでください。
「えぇと…ただいま?」 ドックから船内へ入るハッチを開けると、マイスターとクルーが勢揃いだった。 My Sweet Sweet Darling! 〜 結婚報告は事後でおk 〜 無断外泊を叱られる少女というのはこんな気分なのだろうか。 広い会議室に主要クルーとマイスター、そしてグラハムと俺。座ってじっくり話をしましょう、とのスメラギさんの言葉で座したはいが、気まずすぎる。会っていきなりグラハムが自分の所属や部隊を言ってしまったばかりに、刹那はものすごい目つきでグラハムを見ている。あぁ、そう言えばしつこく追いかけ回されたと言ってたよな…。そのパイロットご自身が目の前にいるとなれば、心中おだやかではないだろう。しかも、それが仲間の夫となるなんて言われたら…な。 俺とグラハムが座っている席の真ん前に並ぶのは刹那、アレルヤ、ティエリア、スメラギさんにおっさんの順。…なんというか、夫婦とその子供に見えなくもない。 俺は本当はそっちに座りたかったし、グラハムの隣なんて死んでもごめんだったんだけど、あろうことかあの阿保が、腰抱き肩抱き座って下さるものだから? 「とにかく…ロックオンが無事で何よりだわ」 重々しい雰囲気に咳払いをし、スメラギさんが話しかける。俺は深々と頭を下げて、自分の失態とデュナメス、ハロの事を説明した。ユニオン内部の事を話しているというのに、グラハムは特に咎めることもなく黙っている。本来ならばこちら側の招きがなければ、ユニオンの軍人がプトレマイオスを発見することは出来ないし、内部に入ることなど不可能だ。これは場所と着艦許可をだしたスメラギさんへの報酬ととってもいいかもしれない。一通り話し終えると、スメラギさんとおっさんが笑顔でおかえりと言ってくれた。…マイスターは相変わらず黙ったままだけど。 「…では、そろそろ本題に入らせて頂いても?」 「……えぇ、いいわよ」 それまで黙っていたグラハムが急に口を開く。ハリのある、良く通る声が部屋の中に響き渡る。何を言い出すか解っているだけに、俺としてはそのクソ真面目な声を出すのは止めてもらいたかった。あぁ、どーせ止めたところでコイツは俺の言う事なんて聞かないんだ。もうこの間の電話で周知の事柄になってしまったから、今更止めたところでどうなるとも思えなかったが…。 それよりも俺は、「あのフラッグで二人できたの?」という質問がされない事を祈るばかりだ。かいてしまった恥はしかたがないが、隠せる可能性のある恥なら、墓まで持って行きたい。 「先日、彼と入籍し晴れて夫婦となりました。つきましては、事後で申し訳ないのですが…この事をお許し頂きたいと。」 真剣な顔で頭を下げる姿に俺も驚く。おいおいおい、そんなことされたらなんか信じそうになるだろ。アンタなまじ顔が良いし、動作一つ一つが育ちの良さを物語ってるから様になりすぎて怖いんだけど。 演技だとしても、やりすぎだ。絶対俺、今あきれ顔であいつのこと見てるよ、自信がある。 「入籍って…本当に受理されたのかしら?」 「えぇ、ちゃんと受理されました。」 「受理!?……そ、それは、ロックオンも同意の上なの?」 この通り…といってグラハムが差し出した書類を見て本気で驚くスメラギさん。その書類はオッサンへ渡り、スメラギさんの後ろを経由してティエリア達へと渡っていく。しっかりと法的に施行されたことが示されている書類を手に持ったまま固まるティエリア、それをのぞき込んで驚愕の表情を浮かべながらも、刹那に説明してやるアレルヤ。…今にもティエリアがきれそうなのが見て取れるあたり恐ろしい。俺だって望んでこんな事になった訳じゃないんだからなっ 「勿論、同意の上だろう?」 「へ?何が」 そんなことを考えている最中に話しかけられても、何のことだか解るはずもなく。 思わず素っ頓狂な声を上げてグラハムの顔を見てしまう。 「君と、私の結婚だ。」 一字一句区切るように言われた台詞。 君と、私の結婚が、同意? ん、君=俺?俺の結婚が…同意??? おいおい、嘘いっちゃあいけないぜ。 「同意ぃ?!あれの何処が同意だ!!拘束されて動けない俺に、アンタが勝手にやったんだろーが!」 「でも君は私を止めには来なかっただろう?」 「阿保か!あの状態でどーやって追いかけるんだよっ!頼む、常識でもの考えてくれっ」 急に声を荒げてグラハムにくってかかる。拘束、動けない、勝手に…等の取りようによっては如何様にもとれる言葉に、机を勢いよく叩いて立ち上がったかと思えば、ついにティエリアが、切れた。 「貴様っ ロックオンに一体何をした!!答えようによっては許さんぞ!!」 「ちょ、待て、お前何を想像した!?」 確かにされたっちゃされたけど、お前が考えているような過激なことではないと思うぞ!? 名誉のために言っておくが、俺は何もされていない!というか、されてたまるか!!そう叫びだしたい勢いで身を起こすが、何故かグラハムに手で制され背もたれに逆戻り。思わずグラハムへキッと視線を寄越すが、「お前は黙っていなさい」と言わんばかりの諭し顔で見られ、内心「はぁ!?」となる。端から見れば答えに詰まった妻が、夫に助けを求めているように見えなくもない。ちなみに、一杯一杯になっていた俺は、その行動がスメラギさん達の目にどう映っていたかなど知るよしもない。一度きれたティエリアは手に負えない、その内銃を向けてくるんじゃなかろうかと言うほどの殺気だ。クルーもマイスターも止められないことが解っているからこそ、誰も口を挟もうとしない。 「答えろ!貴様、答えられないような仕打ちをしたのか!?」 「フラッグに誓って、手を出していないと誓おう」 だから何でフラッグ! 「そんな言葉を信じると思っているのか…っ」 「私はそんなにいい加減な人間に見えるのか?確かに拿捕した相手に惚れたなど、信じようにも信じられないだろうが…。私は、両親の了承も得ていないのに手を出すようなふしだらな男ではない」 「例えそうだとしても、僕は信用できませんね」 激昂するティエリアの隣に腰を下ろしたままのアレルヤが、年相応にしては低い、力をもった言葉でもってグラハムを拒絶する。やわらかな表情は影を潜め、その顔は真剣そのものだ。 ・・・つーか、おい、両親って誰のことだ。ふしだらって、何のことだ。つーか、こ、この間のは手を出した内に入らないのか!?相変わらず疑心の目が向けられる。俺自身信じられないんだから、アレルヤやティエリアが信じられないのも当たり前だ。大体夫婦って何だ、夫婦って。憤ったティエリアが再度机を叩く音が響く。でもまさか、ティエリアがここまで憤慨してくれるとは思ってもいなかったし、争い事を嫌うアレルヤまでもが声を上げてくれるとは…何となく…嬉しいような気持が湧き上がってくる。その気持が表情に表れていたのだろう 「ロックオン!何を笑っているっ」 「え、俺笑ってた…?」 「大体、何故何も言わない!自分のことだろうっ!?」 「そう言われても…ティエリアが思うような事は何も。それに俺だって、自分の身体ぐらい守れるよ」 そうやすやすとねじ伏せられるほど弱くはないつもりだ。だが、言い放った後にクスっと笑う気配がしたのでグラハムの方を向くと、ついこの間のことを思い出しているのかお綺麗な顔に微笑をうかべてらっしゃた。…むかついたので、思いっきり足を踏んでやる。 「ロックオン。仮に身体を守ったとしても、そのような行為をされたというのは、十分に危険なんですよ!?」 「アレルヤ…」 自分を心配してくれる感じが全面に出ている人間に、ごまかしの言葉なんて使いたくない。けどさ…、何でみんな貞操の心配ばっかしてるんだ?疑問はぐるぐると頭の中を回っていたけれど、心配そうにこちらを見詰めるアレルヤへ入院中も拘束はされてたけど手荒な真似はされなかったという旨を付け加える。アレルヤが「それは本当ですか?怪我は?」と心配げに尋ねる。頭を打ったための脳震盪と軽い打撲だけで済んだ事を伝えると、彼はほっと息をついた。 「とにかく…ちゃんと話すから、座れよティエリア。アレルヤも。落ち着いて話がしたい」 宥めるように言うとティエリアは腑に落ちない顔をしながらも腰を下ろす。なんだかグラハムが話す毎に話がややこしくなっているような気がするので、横目で睨み付け「アンタは黙ってろ」と言っておく。大体、この結婚自体の偽造なんだからこんなクソ真面目に挨拶などしなくていいのだ。 「えぇと…最初に俺の名誉の為に言っておくが、俺は何もされてない。わかったな。」 本当はこんな事を言うつもりなんて無かったのに…。不甲斐なくて涙が出そうだ。出来ればクルーもそうだが、刹那の前ではこういう言葉は言いたくなかった…変なトラウマにならなければいいけど…。あぁ、無垢な視線が痛い。 「じゃあ順序立てていうからな?」 まず初めに、拿捕したのはこのグラハムであること。尋問や拷問、悪ければ公開処刑から俺を救う手立てがどうしたわけか"結婚"という行為に結びついたこと。偽装結婚であるが、一応それらしく振る舞う必要があること。で、何故かグラハムが挨拶に行きたいと言いだしたこと。今自分は法的効力に守られて一応自由に?生活できていること(グラハムの自宅で、という言葉は名誉のために言わなかった)以上の事を順序立てて伝えてやると、スメラギさんとオッサン、アレルヤは小さく頷いてくれた。 刹那とティエリアが黙っているところを見ると、どうやら二人も大筋は理解してくれたらしかった。 「……とにかく、フリってことなのね?」 「…そう言うことです」 グラハムがどう思っていようと、俺はフリ以外の何物でもないと思っている。無茶苦茶な事を言っている自覚は充分にあるけれど、それでも一応自分のおかれた立場を理解してくれた事にほっとする。 ティエリア、アレルヤ、刹那。俺はホモじゃないからな。 「もー、ビックリするじゃないの。本当に…連絡があったかと思えば、金髪碧眼の王子様みたいなのを連れてくるんだから、本気で結婚したのかと焦っちゃったわよ」 「あははは…」 や、法的にはしっかり結婚"させられ"てますけどね。 「そう言うことなら、こっちもお礼を言わないと。うちのマイスターを助けてくれて、ありがとう御座います。ロックオンは器量もいいし、美人だから…嫁にするにはもってこいだと思うわ」 「もちろん、素晴らしい人物で身に余る思いです」 「ロックオンを、宜しくお願いします。」 ……おい、何をさらっと、いってらっしゃる? 待って、待ってくれスメラギさん。コイツにんな事いったら、取り返しのつかないことになる! すっかり状況を理解し、なぜか両親の"フリ"まで始めてしまったノリのいいスメラギさん。 おい…。俺の身柄とか、その他諸々の問題は片づいてないよな?そこんとこ、もっとスメラギさんには強く言ってもらいたかったんだけど… あ、あれぇ…? マイスターズはスメラギさんの言葉に目を剥き、口々に「許さん!」だの「俺は認めない」だの、反対の言葉を口にしている。助けを求めるようにアレルヤへ視線を向けると、丁度スメラギさんへ「もっとよく考えて下さい!だから飲酒して同席しないで下さいって言ったのに!」と口走っているのが聞こえる。 …飲酒、してたんですね、スメラギさん。ぎゃあぎゃあと喚くマイスターズを全く気にせずニコニコとグラハムへ笑みを向ける彼女。 「彼は、私が責任をもって幸せにします」 隣で深々と礼をするグラハム。確かに俺は"フリ"のつもりだし、グラハムもそうであると信じたいけど… 確か"私は、両親の了承も得ていないのに手を出すようなふしだらな男ではない。"とか、言ってた…よな。……こ、これって両親の、承諾・・・にあたるのか? オッサンの「ロックオンを助けてくれた事にはお礼をいいますよ」という言葉を聞きながら、実は自分は進んでヤバイ道に進んだんじゃ無かろうかと、激しく後悔していた。 了 おまけ 挨拶を終えてグラハムとロックオンが帰りました。さぁ、その後のマイスターは? ……作戦会議中でした。 「あの男…何を言うにも真剣そのものだった。」 ティエリアが腕を壁にもたれ、腕を組みながら呟く。 「確かに…でも、フリって言ってたし。ロックオンを助けてくれたみたいだったけど…」 「だが、あいつが拿捕したせいでロックオンがあんな目に遭っている」 報告…と名の付いた席で何も話さなかった刹那が久しぶりに口をひらく。…あれ、しかもなんだか正論だ。僕は窓際から移動し、刹那の座る椅子と壁にもたれ掛かるティエリアの近くへ寄る。 「そうだ。それによく考えてみろ、アレルヤ・ハプティズム。ロックオンは"フリ"と言ったが、肝心のあの男からはその言葉を聞いていないぞ」 「あ…」 ロックオンの説明に気を取られ、納得したつもりでいたが、よくよく考えてみればそうだ。 それに、あのロックオンの事だ、いくらグラハムに言い寄られたとしても真に受けるとは限らない。 (…すごく、鈍感だから、ね。) 「大体、外見が良いだけで何を考えているのかさっぱりわからない。信用にたる人物とは言い難い」 「僕も同感ですよ。」 ティエリアと僕の意見が一致し、刹那もそれにこくりと頷く。 ロックオンはきっと騙されて…いるんだと思う(この言葉が妥当かどうかはわからないけど) 「あの二人…フラッグで来て、フラッグで帰っていったぞ」 「フラッグ…って、二人乗り…じゃあないよね?」 もしかしてもしかしなくても、本当にロックオンはグラハムのアタックを本気にしていないのかもしれない。フラッグの座席は一つ、ということは必然的に座る場所はない。ガンダムのようにバックスペースがあるわけじゃないから…や、でも、そんな。 「帰る前に、ロックオンが"姫抱きは勘弁"と言っているのが聞こえた」 ……姫抱き?姫抱きって、あれのことだよね?あの、横に抱くやつ。 単調な刹那の言葉を聞いているにもかかわらず、その意味を考えれば考えるほど怒りがこみ上げてくる。 -----ハレルヤ、これは許されない事だよ。 「ハハハハ!!!言い度胸だ…グラハム・エーカーとやらぁあああ!!」 「万死に値する…!」 マイスター最年長のロックオンは、彼が思っているよりもずっと、3人に愛されているのでした。 |